以前に、私が横溝正史に興味を持って初めて読んだ作品が
「女王蜂」 だったということを書いたのですが、
「女王蜂」 を読んですっかり横溝正史の世界に惹きつけられた私が、その次に読んだのが
「犬神家の一族」 でした。
やっぱり一番有名な作品でしたからね、何はともあれまずはこれを読んでおかないとと思いまして。
「女王蜂」 を読み終えた後、また親にねだって買ってもらいました、
角川文庫の
「犬神家の一族」。
「女王蜂」 のところでも書きましたが、漫画本はなかなか買ってもらえなかったんですけど、活字の本だとすんなり買ってくれましたね。
親にしてみると 「漫画は低俗、小説なら勉強になる」 みたいな認識だったんでしょう。
まあしかし、
「犬神家の一族」 が小学生の読むのにふさわしい内容かどうかは疑問ですけど・・・。
買ってもらってまず目がいくのはカバーのイラストです。
冒頭の画像がそれですけど、11才の私は、この
なんとも不気味で美しいイラストに魅せられて、飽きることなくジーッと眺めていたものです。
これを見ているだけでドキドキワクワク感MAXという感じでした。
横溝正史の角川文庫のカバーのイラストは、全て
杉本一文さんによるものですが、どれも大好きなんですけど、中でもこの
「犬神家の一族」 のイラストは特にお気に入りです。
表紙のイラストから中身の文章へと繋がっている、すんなり入っていける、そんな感じでした。
読み始めるとこれがまた面白くて、
「女王蜂」 以上に夢中になって読みました。
「女王蜂」 は
「犬神家の一族」 に比べると、ライトな感じですよね。
「犬神家の一族」 の方が、全体的に
よりおどろおどろしい陰惨な雰囲気で、その分より私好みで、
「犬神家の一族」 の世界にどっぷり浸りながら読んでいた11才の私でありました。
本当に怖かったです。
幽霊とか呪いとか、そういったオカルト系のお話しではないにもかかわらず、そういう系の
ゾゾゾーッとするような怖さを感じながら読んでいました。
冒頭いきなり
「信州」 という言葉が出てきて、
長野県が舞台になっているということも、「おっ」 と幼心にもうれしかったですね。
「犬神家の一族」 は、長野県那須市の那須湖畔という架空の場所が舞台となっているのですが、読み始めた最初は 「長野県に那須市とか那須湖なんてあったっけ?」 と思ってしまったバカな私です。
でも、読み進めていくうちすぐに、那須湖、上那須、下那須などの言葉から、「あ、これはきっと諏訪をモデルにしているんだな」と気づきましたが。
「桑畑のはるかかなたに望まれる富士の峰」 という文章もあって、諏訪湖のあたりからは遠くに富士山が見えるんですよね。
横溝正史が戦前に、病気療養のため上諏訪で過ごしていた時期があるということを知ったのは、ずっと後になってからの事でした。
まだ映画の方は見ていなかったんですけど、あの
湖から足が二本逆さまに立っている映画ポスターはすごくインパクトが強くて印象に残っていたので、小説を読み進めていくうちにあの場面が出てきた時は、「ああ、これがあのポスターの場面かぁ」 と思ったものです。
登場人物は皆ぼんやりとしたイメージで読んでいました。
以前に、
地元で 「犬神家の一族」 のロケが行われた という話しを書きましたが、それで
島田陽子さんが出ているということはわかっていたので、
野々宮珠代の役はきっと島田陽子さんだろうなと思って、
珠代だけは島田陽子さんのイメージで読んでいました。
まだ習っていない漢字や、意味のわからない言葉も結構ありましたが、だいたい字のイメージとか前後の文脈から適当に理解してましたね。どうしてもわからなければ、辞書を引いたり親に聞いたり。
「衆道の契り」 なんて言葉も
「犬神家の一族」 を読んで知り、覚えた言葉です(笑)。
これは、初めて見る言葉でしたが、前後の文脈から 「・・・そういう意味かな」 と子供なりに理解して、「これは意味を親に聞いてはいけない言葉だな」 ということもすぐに理解できました。
当時はまだ自分がゲイだという自覚はありませんでしたが、なんかこうドキドキむずむずするような感覚をおぼえたものです。
そうそうこの時、部屋で
「犬神家の一族」 を読んでいる最中に、夜、突然停電になったんですよ。
それでも私はどうしても読みたくて、真っ暗な中で懐中電灯を持ってきて、照らしながら読んでいたなんてことも懐かしく思い出します。
「犬神家の一族」 は、今までに何度か読み返しているのですが、子供のころ読んだのと大人になってからとでは、多少感想も違ってきたりします。
大人になって読み返して、あらためて思ったのは 「酷い遺言状だな」 と(笑)。
それを言っちゃおしまいなんですけどね。
犬神松子・竹子・梅子の三姉妹は、悪人的に描かれていますけど、まあでも三姉妹の母親たちへの
犬神佐兵衛の仕打ちとか、三姉妹の育った環境を考えれば、三姉妹が
佐兵衛に対して良い感情を持てないのは当然です。
三姉妹による
青沼菊乃襲撃事件も 『とんでもなく酷い事』 として書かれていますが、いやいや、三姉妹の立場になってみれば気持ちはわかりますよ。自分たちに全く愛情を示してくれない父親が、どこの馬の骨ともわからない愛人に家宝を譲ったなんて、そりゃ怒り心頭ですよね。
あげくにあんな遺言状残されちゃーね、ふざけんなって話しですよ、ホント。
この事件、結局誰が一番悪いのかって考えると、
犬神佐兵衛ですよね。まったく、罪なお人じゃ。
まあでも、とんでもない遺言状だからこそ、物語が面白くなるわけですが。
それはわかっちゃいるんですが、三姉妹に同情的な意見てあまり無いと思うので、一応書きとめておきたいと思った次第です。
横溝正史の小説というのは、ドロドロした人間関係に残酷な殺人事件というのがお約束ですが、おとぎ話というか 「まんが日本昔ばなし」 的な感覚で、私の場合は読んでいたように思います。
子供向けではない内容に思えますが、逆に子供だったので、どんな残酷な場面もファンタジーの様なとらえ方ですんなり読むことができたのかもしれません。